HOME本のページシェイクスピア > 生きるべきか死ぬべきか

5.日本語訳いろいろ

それが疑問ぢゃ

有名なセリフの色々な日本語訳を調べてみました。
意外と“To be, or not to be”の「生きるべきか死ぬべきか」は少数派です。いつ頃の時代の方が訳されたのか、翻訳者さんたちについても簡単に書いておきます。


“To be, or not to be: that is the question”
「ハムレット」第三幕第一場


古いものから順番に見ていきましょう。

●日本初の翻訳は『ザ・ジャパン・パンチ』に掲載されたチャールズ・ワーグマンの
「アリマス、アリマセン、アレハナンデスカ?」(1874)

 但しこれは真面目に訳したのではなくて風刺をきかせた訳。当時の横浜在住の外国人が使っていたおかしな日本語(ピジン日本語)を揶揄して、ピジン日本語ならこんな風になるだろうと訳したものとの事。→[参照] (東京大学教養学部報 河合祥一郎 シェイクスピア没後四百年の今)

●矢田部良吉
 「ながらふべきか但し(しかし)又、ながらふべきに非ざるか 爰(これ)が思案のしどころぞ」(1882/明治15)

●坪内逍遥
 「存ふか、存へぬか、それが疑問ぢゃ」(1907年)
 「世に在る、在らぬ、それが疑問じゃ」(1909年)
 「世にある、世にあらぬ、それが疑問ぢゃ」(1933/昭和8)

●久米正雄
 「生か死か・・・・・、それが問題だ」(1915年)

●本多顕彰
 「あるべきか、あるべきでないか、それは疑問だ」(1933年)
 「長らうべきか、死すべきか、それは疑問だ」(1949年)

●市河三喜・松浦嘉一
 「生きるか、死ぬるか、そこが問題なのだ」(1949年)

●三神勲
 「生きる、死ぬ、それが問題だ」(1951年)

●福田恆存
 「生か、死か、それが疑問だ」(1955年)

●小津次郎
 「やる、やらぬ、それが問題だ」(1966年)

●小田島雄志
 「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」(1972年)

●松岡和子
 「生きてこうあるか、消えてなくなるか、それが問題だ」(1995)

●永川玲二
 「生きるのか、生きないのか、問題はそこだ」(1998)

●野島秀勝
 「生きるか、死ぬか、それが問題だ」(2002)

●河合祥一郎
 「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」(2003年)

●安西徹雄
 「生きるか、死ぬか、問題はそこだ」(2010年)

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<翻訳された方たち>
  • チャールズ・ワーグマン(Charles Wirgman, 1832-1891)
     イギリスの画家・漫画家。幕末期にThe Illustrated London Newsの特派員として来日。居留外国人向け漫画雑誌『ザ・ジャパン・パンチ』(イギリスの風刺漫画雑誌パンチを模したもの)を発刊。日本人女性と結婚。
  • 矢田部良吉 (1851/嘉永4−1899/明治32)  植物分類学者。尚今と号して明治前期の詩壇にも活躍。
  • 坪内逍遥 (1859/安政6−1935/昭和10) 小説家・評論家・劇作家・翻訳家。1928(昭和3)年に全集40巻が完結、1935(昭和10)年に新修版完結。
  • 市河三喜 (1886/明治19−1970/昭和45) 英語学者。
  • 松浦嘉一 (1891/明治24−1967/昭和42) 英文学者。夏目漱石門下。
  • 久米正雄 (1891/明治24−1952/昭和27) 小説家・劇作家・教育家。
  • 本多顕彰 (1898/明治31−1978/昭和53) 英文学者・評論家。
  • 三神勲 (1907/明治40−1997/平成9) 英文学者。
  • 福田恆存 (1912/大正1−1994/平成6) 評論家・劇作家・演出家。
  • 小津次郎 (1920/大正9−1988/昭和63) 英文学者。
  • 永川玲二 (1928/昭和3−2000/平成12) 英文学者。
  • 野島秀勝 (1930/昭和5−2009/平成21) 英文学者、文芸評論家
  • 小田島雄志 (1930/昭和5−) 英文学者・演劇評論家・翻訳家。1980年に全作品を訳了。シェイクスピアの個人全訳は坪内逍遙についで2人目。
  • 安西徹雄 (1933/昭和8−2008/平成20) 英文学者、文芸評論家
  • 松岡和子 (1942/昭和17−) 翻訳家・演劇評論家。彩の国さいたま芸術劇場での彩の国シェイクスピア・シリーズ企画委員のひとり。
  • 河合祥一郎 (1960/昭和35−) 英文学者。母方の大叔父が坪内逍遥。高橋康也の女婿。


“Frailty, thy name is woman.”
「ハムレット」第1幕第2場


●坪内逍遥
 「弱き者よ、汝の名は女」
 「脆(もろ)き者よ、汝の名は女」

●福田恆存
 「たわいのない、それが女というものか!」(1955)

●小田島雄志
 「心弱きもの、おまえの名は女!」(1972)

●松岡和子
 「もろきもの、お前の名は女」(1995)

●永川玲二
 「脆いもの、それが女の本質なんだ!」(1998)

●河合祥一郎
 「弱き者、汝の名は女」(2003年)

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